■生まれ育った野々市市から基調講演の依頼
私が野球をしてきて良かったと感じていることの1つに「出会い」があります。大阪桐蔭高校では遠征が多かったこともあり、全国各地に野球を共通言語にした仲間が増えました。亜細亜大学や東邦ガスでも同様、チームメートだけにとどまらず、所属チームや年齢を超えて様々な人たちと親しくなりました。共通の知人がいたことから話が盛り上がり、距離が縮まったケースも多いです。
2年前に起業してからも、野球を通じた縁に恵まれています。先日初めて経験した基調講演も、その1つです。9月27日、私は生まれ育った石川県野々市市の依頼を受けて、「これまでの野球人生と企業スポーツの支援」をテーマに講演してきました。きっかけは、その3か月前に地元の少年野球チームにバットやグラブを寄贈したことでした。
野々市市で野球を始めていなければ、間違いなく今の私はありません。楽しい思い出や人間的な成長、財産となっている人とのつながりも野球をしていたからです。起業を決めた時、どこかのタイミングで地元や野球界に恩返ししたいと考えていました。
まだ私が経営する会社の規模は大きくありません。ただ、自分にできることから始めていこうと思い、6月に野々市市を訪れて子どもたちに野球用具を手渡しました。その時、野々市市から「機会があったら、今までの経験をお話していただけませんか?」と声をかけていただき、今回の基調講演が実現しました。今後も野々市市をはじめとする石川県で積極的に活動していきたい私にとっては、すごくありがたいお話でした。
■大阪桐蔭の強さの理由に参加者は興味津々
これまでに取材を受けたり、YouTubeの動画を撮影したりする経験はありますが、講演は初めてでした。地元の企業やスポーツ協会の方々が約100人集まる場で、45分もスピーチできるのか。光栄で楽しみな気持ちがある反面、不安もありました。
まずは、何を話すのか構成を考えました。自分の野球人生を振り返ってメモしていくと、次々に思い出や学びが出てきました。その中から、基調講演の出席者が興味を持ちそうな話題や参考にしてもらえそうなテーマをしぼっていきました。原稿を書いてパワーポイントの資料をつくり、リハーサルしてから本番に臨みました。
本番で心掛けたのは間の取り方です。緊張すると話すスピードが速くなってしまい、一方的に伝える形になってしまいます。しっかり準備できたこともあって、当日は参加者の反応を見る余裕がありました。時間配分も予定通りで、45分の講演と10分の質疑応答を無事に終えられました。
参加した方々の関心が高かったのは大阪桐蔭高校の練習メニューや西谷浩一監督の指導方針、それから選手の体が大きいイメージがあるようで食事に関する質問もありました。私は人一倍きつい練習や寮生活を経験してきたので、その経験が「野球引退後にどのように生きているのか」もたずねられました。
■ドジャース・大谷翔平選手とのエピソードも披露
その他には、ドジャースでプレーしている大谷翔平選手についての話も反応が良かったです。私は高校2年生のセンバツで初めて甲子園に出場しました。その時に初戦で対戦したのが大谷選手擁する岩手県の花巻東高校でした。試合には勝利したものの、投打で大谷選手のすごさを実感した試合でした。マウンドに立った大谷選手に私はノーヒットに抑えられ、打撃ではライトを守っていた私の頭上を越えるホームランを見せつけられました。
甲子園での対戦は、この一度だけでした。ただ、高校3年生の時に18歳以下の日本代表でチームメートになりました。そこから親交が深まり、大学時代は当時日本ハムに所属していた大谷選手に食事やサプリメントについて聞くために連絡したこともありました。
講演後は全ての参加者と言っても良いくらい、皆さんがご挨拶に来てくださいました。講演の感想をいただいたり、石川県のために力を貸してほしいとお声がけいただいたり、新たな出会いに恵まれる充実した時間でした。講演の依頼をいただいた野々市市や参加していただいた方々には、改めて感謝申し上げます。
講演翌日には、石川県金沢市で小、中学生を対象にした野球指導のイベントを開催しました。石川県での野球イベントは3回目でしたが、今回は募集をかけてわずか1日で定員が埋まりました。できるだけ多くの子どもたちと触れ合いたいので、頻度を増やしていけたらと思っています。
■石川県に室内練習場の計画 年末は復興イベント
実は今、石川県に室内練習場をつくって、野球塾を運営する計画を進めています。最大のハードルは場所です。室内で硬式ボールを使える場所は、なかなか見つからないんです。雨や雪で練習ができずに悩んでいるチームや選手の声も聞いているので、野球塾の時間以外は一般向けの貸し出しを予定しています。
起業したことで自分のスケジュールを調整しやすくなり、最近は石川県に行く機会を増やしています。12月28日には能登町の「スポーツセンターろくせい」で石川県にゆかりのあるプロ野球選手を招いたイベント「GO能登!野球応援プロジェクト」を開催します。被災地を野球で元気にする目的です。
うれしいことに、基調講演で知り合ったことがきっかけで「GO能登!野球応援プロジェクト」に協賛してくださる企業も現れました。こうやって同じ思いを持った人たちとつながり、輪が広がっていくことが一番の喜びです。
地元への恩返しは一般的に、事業で成功してから行動する人が多いと思います。私も元々、経営者として会社の収益を安定させて、お金や時間にゆとりができてから動き出そうと考えていました。でも、今は事業と地元での活動を同時に進めていく考え方に変わりました。その理由は、いくつかあります。
■「今を大切に」 地元での活動と事業を同時進行
元日の能登半島地震では、当たり前の日常が奪われました。「そのうち行動しよう」という考え方では、手遅れになって後悔するかもしれません。これまで以上に、「今」を大切にしようと痛感しました。
それから、地元での活動や出会いは仕事の活力にもなります。業績を伸ばせば、それだけ地元に還元できることが増えるわけです。野球用品の寄贈は基調講演につながり、基調講演は野球イベントや室内練習場の計画へと発展しています。今後も石川県の皆さんと交流を広げ、故郷の力になりたいと考えています。
講演は初めての経験でしたが、すごく楽しい時間でした。話し切れなかったエピソードもまだまだあるので、また機会をいただけたらうれしいです。
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